本講演会では下記の特別講演、チュートリアル、招待講演を企画致します。
■ 特別講演
自然災害に対する安全と共生の哲学
重村 力 (神戸大学名誉教授、神奈川大学工学部教授、九州大学客員教授)


日時:5月20日(水) 15時〜16時 を予定
場所:神戸市産業振興センター 3階 ハーバーホール

わが国は地震・暴風・津波・洪水・雪害をはじめとする多くの自然災害の脅威にさらされている。神戸を中心に発生した阪神大震災の被害は、現代大都市を直下から襲った地震災害として多くの教訓を残した。地震に強く壊れない人々の安全を守る建築や社会基盤施設をつくること、それをさらに研究することの必要性は言うまでもない。だが災害全体の被害を未然に軽減しあるいは復興過程ですみやかに復旧することによって、社会の被害を軽減するという減災の考え方を私たちはもっとふかく研究する必要がある。神戸大学の21cCOEは、この減災の考え方に関連して、共生的安全という概念の必要性と各分野における深化を研究してきた。安全に対する考え方は、個別技術にのみ依拠する安全から社会によって支えられる総合的安全をめざすことによって、より実効性のある安全を追求することができる。また単なる自然克服型の技術から環境共生的な技術を追求することによって実質的に豊かな環境に到達することができる。講演では、阪神の復興過程の教訓、中越震災の教訓と最近のジャワ島中部地震の復興過程を事例にこの考え方を紹介する。


 チュートリアル
【1】 制御工学においてプログラミングを楽しむために
【2】 パラメータを有する制御問題に対する近年の代数的アプローチ
【3】 制約プログラミングの計画問題への適用 −基礎理論,プログラミング技法,応用例−
【4】 感覚・運動特性に基づく人間‐機械システムの開発

■ 招待講演

【1】 実践的な非線形制御と適応制御 −応用の難しさと楽しさ−
【2】 デジタルマニュファクチャリングにおける設備シミュレーション
【3】 最適化モデリングによるAHP
【4】 社会シミュレーションにおけるエージェントの役割:強化学習エージェントをどう活用するのか? − 人間挙動再現か人材育成か
【5】 群ロボット制御のグラフ理論
【6】 最近の凸最適化の発展


■ チュートリアル
【1】 制御工学においてプログラミングを楽しむために
藤岡 久也 (京都大学大学院情報学研究科)
現在の制御理論は計算機パワーの利用を前提としており, ユーザおよびライブラリ開発者いずれの立場からも効率のよいプログラミング環境が望まれる. 本チュートリアル講演では, 制御工学におけるプログラミングを「楽しく」「楽に」行うためには, 近年の CACSD ソフトウエアにおいて環境が整いつつあるオブジェクト指向プログラミングが有効であることを平易に解説する. 講演前半では, Control System Toolbox と YALMIP を例に, ユーザの立場からの有効性を解説する. 後半では, 講演者らが開発した Sampled-Data Control Toolbox を紹介し, ライブラリ開発における有効性を解説する.

【2】 パラメータを有する制御問題に対する近年の代数的アプローチ
管野 政明 (新潟大学教育研究院自然科学系)
計算機能力の向上に加え効率的なアルゴリズムの開発により,toy problem 以上の問題が計算機代数及び代数的アプローチにより解くことが可能となり,実用面での期待も高まってきている.本チュートリアルでは,近年発展した代数的アプローチを概説するとともに,そのような代数的アプローチを積極的に活用し,パラメータを陽に扱えるという計算機代数の利点を生かした制御系設計手法を紹介する.代数的アプローチとしては,代数等式・不等式条件を扱う限定記号消去(Quantifier Elimination; QE)とその代数的解法,連立代数方程式を扱うグレブナ基底を紹介する.そして,それらのアプローチを用いた,複数の制御仕様を満たす,PID コントローラなど低次のコントローラの設計手法や,パラメータを含む制御対象に対するパラメトリック H2 制御の解法を紹介する.

【3】 制約プログラミングの計画問題への適用 −基礎理論,プログラミング技法,応用例−
野末 尚次 (数理モデリング研究所)
現実の計画問題は,複雑な制約条件が多く,従来の手続き的なアプローチでは困難な面がありました.これに対して,制約プログラミングでは(CP)では,制約条件を記述する宣言的なアプローチとこれに対する求解を支援するエンジンとで構成されており,複雑な問題への対応が可能です.CPの理論的な基礎と具体的な適用法を,ILOG社の制約プログラミングパッケージ(Solver/Scheduler)を実例として解説いたします.

【4】 感覚・運動特性に基づく人間‐機械システムの開発
辻 敏夫 (広島大学大学院工学研究科)

人間‐機械システムの設計には,「ユーザである人間にとって使いやすいか」という人間中心の視点が求められる.人間にとって使いやすく,意のままに操作可能なシステムが実現できれば,自動車などの移動機器はもちろん,福祉機器や医療機器の開発にも役立つであろう.そのようなシステムを実現するためには,まず人間の感覚・運動特性を工学的に理解し,その特性に合った制御システムを設計することが肝要である.本講演では,特に人間の筋骨格系の機械インピーダンス特性に着目し,人間の感覚・運動特性の計測とモデル化の方法について述べるとともに,その結果を福祉機器,医療機器,移動機器の開発に応用した例について紹介する.


■ 招待講演
【1】 実践的な非線形制御と適応制御 −応用の難しさと楽しさ−
深尾 隆則 (神戸大学大学院工学研究科)
何らかの非線形性や不確定性を陽に取り扱う制御手法である非線形制御と適応制御の理論面での成熟が進み,これらの産業応用が急速に発展している.しかし,これらの制御手法はいわゆる線形制御に比べて,理論的に複雑で難しいと一般的に言われている.本講演では,これらの制御理論の基本的な考え方を紹介するとともに,講演者らによる自動車制御やロボット制御に関する適用事例も示しながら,理論と応用の適合性について述べる.また,応用に際して重要なセンシング手法についても述べる.

【2】 デジタルマニュファクチャリングにおける設備シミュレーション
日比野浩典 ((財)機械振興協会 技術研究所)
生産システム構築をより効率化する新しいシミュレーション技術の開発を実施している.標準化指向のネットワーク技術(ORiN:産業用ミドルウェア等)を利用する生産準備,工程実装の効率化の研究開発とこれまでの設備シミュレーションの成果を紹介する.

【3】最適化モデリングによるAHP
関谷 和之 (静岡大学工学部システム工学科)
AHP(階層化意思決定法)は1970年代にSaaty氏が開発して以来,手軽な意思決定ツールとして幅広く普及している.また,AHPと他の評価手法を組み合わせた評価手法も盛んに提案されている.本発表ではAHPを最適化モデルとして捕らえることを紹介する.ここで与える最適化モデリングによるAHPは一種の凸計画問題であり,数値計算上取り扱いやすい最適化問題のクラスにある.そのため,感度分析が容易に実現可能であること,分析対象が階層構造からネットワーク構造にまで拡張可能になること,さらに,他の手法にも取り込みやすいことを述べる.

【4】 社会シミュレーションにおけるエージェントの役割:強化学習エージェントをどう活用するのか? − 人間挙動再現か人材育成か
高玉 圭樹 (電気通信大学電気通信学部)
本講演では,エージェントに基づく社会シミュレーションの現状と今後の展開について議論する.特に,社会シミュレーションにおけるエージェントの役割に着目し,どこまで人間挙動の再現が可能なのか,さらには,人材育成に展開できるかを講演する.

【5】 群ロボット制御のグラフ理論
羅 志偉 (神戸大学大学院工学研究科)
ネットワークを介して空間的に離れている複数のロボットを制御するにあたって,各ロボットのダイナミックスや動作環境の影響,協調作業目的の定式化などだけでなく,ロボット間の相互作用を担うネットワークの構造や構造変化,通信プロトコル,通信時間遅れなど,数多くの要因を考慮する必要がある.ネットワークを介した群ロボットの制御問題は,既存のグラフ理論を応用しつつも,新たな数理問題を提起している.本講演ではこの研究に関する最近の成果を総説し,今後の課題を議論する.

【6】 最近の凸最適化の発展
土谷 隆 (統計数理研究所)
この十年の間に凸最適化は制御,機械学習,信号処理,パターン認識,統計科学等の数理諸分野でモデリングのための有効な道具立てとしての地位を確立しつつある.本発表では,近年の新展開のなかから,凸最適化の情報幾何,二乗和多項式と多項式計画問題,制御に現れる半正定値計画問題の数値的困難,大規模凸最適化問題に対する最適な勾配法等の話題を取り上げる.